今年11月末、トルコ政府は、クルディスタン労働者党(PKK)への資金提供疑惑を理由に、62人の個人と20の組織の国内資産を凍結したと発表しました。PKKは1980年代からクルド人の独立を掲げて武装闘争を行ってきた組織ですが、トルコと欧米諸国の一部はテロ組織として認定しています。
資産が凍結された組織は、オーストリア、スウェーデン、スイス、ノルウェー、ベルギー、英国、デンマーク、フランス、イタリア、イラク、シリア、ドイツ、オーストラリアなどで活動しています。中には人道支援を行うクルディスタン赤新月協会 (Heyva Sor a Kurdistanê) も含まれています。
一覧には日本で活動している2団体と6人の個人が入っていますが「テロ組織」や「テロリスト」とは無関係です。当事者はPKKとのつながりを否定しています。にもかかわらず、トルコ政府の発表を鵜呑みにして、当該の団体や個人をあたかもテロリストであるかのように扱う報道が散見されましたので、抗議の声明文を発表することにしました
トルコ政府は、「テロ対策」の名の下に様々な人権侵害を行ってきました。
トルコ政府の「テロリズム」の定義は、極めて恣意的で広範囲に及びます。
これについて米国国務省の「人権慣行に関する国別報告書」が次のように指摘しています。
〈2016年のクーデター未遂から6周年を迎えた7月、内務省は、当局がクーデター未遂以来、ギュレン運動への関与の疑いを理由に33万2,884人を拘留し、10万1,000人を逮捕し、1万9,252人の被拘禁者が今も刑務所に収監されていると発表した。NGO は、PKK との関係の疑いで少なくとも 8,500 人が未決拘留されているか、有罪判決後に投獄されていると推定している。
(中略)
人権団体は、多くの被拘禁者はテロとの実質的な関連はなく、批判的な声を封じたり、与党公正発展党(AKP)への政治的反発を弱めたりするために拘束されたと主張している、 特にHDP※やそのパートナー政党である民主地域党がそうである。〉
出典元:U.S. Department of State[MARCH 20, 2023]2022 Country Reports on Human Rights Practices: Turkey (Türkiye)(https://www.state.gov/…/2022-country-reports-on…/turkey/)
※引用者注:HDP クルド系政党・国民民主主義党
英国内務省報告書2020「国別情報及び情報ノート トルコ:クルド人」(法務省HPに仮訳が掲載)も、次のように指摘しています。
6.2.3〈HO FFT※はアムネスティ・インターナショナル(Amnesty International)のアンドリュー・ガードナー(Andrew Gardner)と面会し、彼によると、「トルコ国家は自治国家支持派の人々、或いは反政府又はクルド人の権利を擁護していると見られる人々を、PKKの政治的影響力を受けていると見なし、これらの人々を刑事処罰している。トルコではテロリズムの定義が本来の定義を超越している。トルコはテロリズムを、暴力的方法ではなく政治的な狙い/範囲として定義している。例えば、クルド人の権利という争点に関して政府に反対意見を述べる者はPKK支持者とされる現在の文脈で異議を唱えられる〉
※引用者注:HO FFT 内務省事実認定チーム
6.2.4〈或るHDP所属国会議員がHO FFTに語ったところによると、「テロリスト組織のためのプロパガンダを理由とする逮捕及び起訴の証拠として許容されるレベルは非常に低い。反政府と解釈されれば何でもよく、例えば私は子供をトルコで死なさせたくない、又は私はトルコに平和が訪れることを望むといった発言でよい。7,000人が政治的理由による収監されているが,全員がHDPメンバーというわけではなく、クルド人の意見を支持した、共感した、或いは政治的意見を共にしたことがある人々である。」〉
出典元:https://www.moj.go.jp/isa/content/001368785.pdf
2016年11月、トルコの治安当局は、PKKの宣伝活動に関わったとしてクルド系政党・国民民主主義党(HDP)の共同党首のセラハッティン・デミルタシュとフィゲン・ユクセクダーと議員十数人を逮捕しました。HDPはPKKとのつながりを否定しており、合法政党としてトルコ大国民議会で第3位の59議席を持つ政党でした。欧州人権裁判所(ECHR)はデミルタシュ氏を即時解放しなければならないとの判決を下していますが、トルコ政府はそれを無視しています。2020年には、トルコの憲法裁判所もデミルタシュ氏の釈放を命じましたが、現在も刑務所に収監されたままです。
トルコ政府は、大統領選を控えた今年1月にHDPの銀行口座を凍結しました。今回の62人の個人と20の組織に対するトルコ国内の資産凍結も、クルド人に対する弾圧・迫害の一環だと考えられます。
私たちは、トルコ政府が「テロ対策」の名の下に行なっているクルド人への人権侵害を非難します。
同時にトルコ政府の発表を検証することなくそのまま報道し、結果としてクルド人への迫害を正当化した日本のメディア報道に抗議します。
2023年12月10日
在日クルド人と共に